ワカモノ思想

ワカモノ達が一つのテーマについてあれこれ書きます

しその思想

 

 最近ぐずついた天気である。おかげで佳乃は私に水を与えるのを面倒がるようになってきた。

 水を与えるという表現でお分かりになったかもしれないが、私は植物、しそである。最近佳乃とかいう大学生にお花屋さんからひきとられ、今では彼女宅のベランダでのんびり過ごしている。当初は明らかに「食べられるもの」として選ばれたように感じたが、私を「ししょう」と呼んで気にかけているあたり、食い意地だけの関係ではないらしい。水やりのことは少し寛容にとらえてやっている。

ぐずついた天気の中で夜遅くに帰ってくる佳乃と空を見上げるが、月も、星も、見られない日が多くなってしまった。雲の向こうには広大な宇宙が広がっているというのに、水蒸気のふわふわしたものによってそれらがさえぎられるなんて、私たちは小さいものだと笑いながらこの雨の季節を楽しんでいる。

さて、月を遮るものと言えば雲だけではない。私たちが根を張るこの惑星だって、時に月に影を落とすのだ。そう、月食

今年、2018年の7月28日に日本で皆既月食が見られる。明け方、明るむ空の中、ひそかにかけながら沈みゆく月。私はその、なんの主張もなくただ定められたように進んでいく天体の景を見て、きっと月へと思いをはせる。

 月食の間、私が月の上にいれば日食をみることになる。太陽が欠ける、それだけでもすごいことだが、それによって昼間に突然夜が訪れることに気づき、驚く。ひととき星が輝き、しかもその星たちは真夏にもかかわらず冬にみえるはずのものである。

突然訪れる暗闇、地球の後ろに広がる満天の、季節外れの星座たち。それらと対峙したとき、私はどんな気持ちを抱くのだろう…

 

 皆既月食は明け方に起こるので、残念ながら私の住む岡山では食の途中で月が沈んでしまって部分食しか見られない。 もっと東に行けば皆既食まで見守れるのだが、私はここにとどまり、続きを思い描くとともに遠い月へと思想の旅行に出かけるとしよう。