ワカモノ思想

ワカモノ達が一つのテーマについてあれこれ書きます

私の料理

 初めまして、ハルトマンと申します。

 

 私は池袋のはずれにある店で店番をしていたことがあります。その店は誰が来るか検討もつかず、来る人間の素性は知れず、ただ顔色が悪いか目が据わった人間がふらっと来ては喋りたいことを喋って帰る、そんなお店でした。最初の頃はただジュースや酒、お菓子を売るだけの日々でしたがある日ふと思いました。

 「この人たちちゃんと食ってるのか?」

 「つまみも無いのに酒売るとか無理だろ」

 頭の中で福祉と商売が同時にポップアップしたのです。

 

 食わせるところから始めよう。当時店に出入りしていた店番側も客側もどっちも食というものが欠け落ちていた。とりあえず何から始めようという段になって私はカレーを作り始めた。

 カレーならば鍋一つあれば都合10人前は作れる計算。客も10人は来ないし運営側と客側で食べてちょうど良い量となる。近所のスーパーで野菜と牛肉を買い適当にやって鍋で煮込んで一杯500円。ルーは当時よく来ていたムスリム層を考慮してラードなど豚系を使用していない商品を使っていた。これが飛ぶように売れた。まさかお代わりまで入るとは思わず即日完売。腹を満たせてビールが売れる。福祉の商売の両立はカレー鍋の中で完成した。

 

 カレーを作り始めてから少し経った頃のこと。友達と2人で高円寺を散歩していた時、歩くのに疲れた我々は昼からスパークリングワインを飲むことにした。ふとメニューを見るとイギリス名物フィッシュ&チップスの文字が。噂ではまずいらしいが食べたことはない。友達と目を合わせ2人で腹をくくるとこの揚げ物の山を注文した。

 美味い。これは酒によく合う。そりゃそうだ世の中串カツ揚げ物メインの飲み屋がいくらあるよ。それが芋となり白身魚となっただけじゃないか、不味い道理がどこにある。よし、作ろう。

 近所の業務用スーパーへ仕入れに走り野蛮な量の冷凍のポテトと白身魚のフライを購入。店で揚げてみるとこれが中々美味い。味付けは家で実験していた極秘の味。ポテトを山盛り盛って一皿500円。売れた。飛ぶように売れた。カレーと違い野菜とか健康面は一切検討してないがとりあえず山盛りのポテトが胃袋を満たす幸福がある。そして人は幸福になると缶ビールを頼む真理がある。

 

 カレーとフィッシュ&チップスは私に福祉と商売の両立を教えてくれた。まとめると飢えた人間は注文をしない。しかし飢えた人間にカレーや揚げ物の香りをきかせるとまず食べ物から注文する。これをサクッと出して食べさせると幸せがオーバーフローして目の前の酒に目が行く。満腹による多幸感はある種のバグに近く手持ち残金が危なくても缶ビールを注文させる。

 商売が回れば次にまた福祉をできることも学んだ。福祉を商売に変換し、商売から得られた利益を福祉に使う。幸福は金を産み、金は幸福を産む。

 

 もし決断するような仕事になったら決して飢えてはいけない。飢えから幸福になると多幸感バグを起こして致命的な決断ミスをすることになるだろう。

 食べろ。何はともかく食べろ。食べている間は間違いはない。